闇黒日記?

にゃもち大いに語る

讀み終へた本

前川佐美雄『秀歌十二月』(筑摩書房グリーンベルトシリーズ76)。昭和三十九年大阪讀賣新聞に連載された和歌の鑑賞。著者の前川氏は『植物祭』をはじめとする變つた歌風の歌人。この種の本では良い歌だけが採上げられてゐるものだから、兔に角良いものだけを手取り早く見たい人には便利だけれども、案外邊外れがあるもので書き手と相性が惡いとつまらなくてつまらなくて何うしやうもない事がある。俺はこの前川さんとは相性が良いらしくて大體どの歌も良いと感じた。
ただ、この手の和歌の鑑賞では大體良いとか惡いとかは感ずるものであり、感性の世界に屬すると云ふ許りでなく、基準が「格が高い」とか「歌が大きい」とか(この本で前川氏が何囘か言つてゐる)、でなければ「寫生」の理論で押し捲るとか(この本で前川氏が頻りに批判してゐる)、先づは道徳と無縁の領域での批評になり勝ちで、その邊は大變「日本的」であり、必ずしも不滿がない訣ではない。とは言へ俺も日本人だからさう云ふ批評は實にしつくり來るのであり、殊に電車の中で適當に讀むのには實に適してゐるので樂しく讀んだ。大體俺は氣が短い人間であり、長い文章をじつくり讀むやうな性質の人間ではないから、この種の短い文章が次々に出て來る本は暇潰しの本として大變重寶してゐる。
俺と相性の良い讀者の方は、この本の著者とも多分相性が良いだらうから、讀むと宜しいかと思ふ。俺の文章が氣に食はない人は先づ間違ひなくこの著者の文章も氣に入らないだらうから讀まないで寢てしまふ方が精神衛生上宜しからうと思ふ。但し版元品切と言ふか絶版だから古本屋で探す事。前にカヴァ缺で買つてその後カヴァ附きのを買ひ直せたから、それなりに賣れてそれなりの數が市場に出まはつてゐるのだと推測する。