闇黒日記?

にゃもち大いに語る

讀了――松田十刻『東郷平八郎と秋山眞之』(PHP文庫)

日露戰爭については昨今いろいろ(惡い意味で)批判的な本が出てゐるけれども、これはオーソドックスで一般的かつ常識的な内容を纏めた戰記。最近は架空戰記ものが大流行だが、あれらは想像の世界の中で日本を勝たせてゐるのであつて、日露戰爭の場合、本當に日本が勝つたのだから、普通に書かれてゐればその戰記が面白くない訣がない。店頭で適當に拾ひ讀みしたら實に普通の本だつたので珍しくこの手の本を新刊で買つて、DVD-Rを燒く合間に讀んだ。

相良俊輔氏の書いた「バルチック艦隊の最期」と云ふドキュメンタリーがあるのだけれども、これをなぜか小学館が「少年少女世界の名作」シリーズのソビエト編に收録してゐて、子供の頃に愛讀した。「難しい漢字」に振假名が振つてあるだけで内容は完全に大人向け。なにしろ日本が勝つ話だから面白い事この上ないのだけれども、一體何だつたのだらう。未だに不思議に思つてゐる。


司馬遼太郎が名將とか軍神とか呼ばれてゐた人を適當に貶めて喜んでゐて、それを「司馬史觀」等と稱して立派な歴史みたいに敬つて見せるのが現代の日本人。けれども、あんないんちきで一方的な内容の小説なんて、讀んでもしやうがない。當り前の内容の本を普通に讀んだ方が良いと思ふ。
日本海海戰では東郷大將が全く無能で、作戰立案から實行まで何から何まで秋山眞之がやつたので、大將は艦橋で茫然としてゐたに過ぎない、なんて出たら目を言ふ人もゐるけれども、戰爭の事を知らないにも程がある。俺も知らない側の人間だけれども、それでも砲彈が飛び交ふ戰場で、茫然としてゐられるだなんて、口から出任せもいいところだと判斷出來る。東郷ターンで三笠は極めて急な囘頭を行なつてをり、艦が大きく傾き、艦橋にゐた人々は何かに掴まつてゐなければならなかつた、とか、松田氏の本ではきちんと書いてある。さう云ふ凄まじい場にゐられたならば、東郷大將は相當の覺悟と、その覺悟を背後から支へる己が立場への確信、或は己が役割への自信があつた筈である。なすべき事を知つてゐたからこそ、戰場の最前線へ自ら立つ事が出來たに違ひない。常識と想像力があれば、いんちきな歴史理論を見て、それをいんちきだと即座に言ふ事が出來る。
後世の歴史研究者が、かつての偉人を貶める目的で適當に理論をでつち上げる事はよくある事で、今の日本人は屡々常識的な判斷が出來ないから、奇矯な説が出て來るとあつさり信じてしまふのだが、それでは「ゆとり」とか言はれても仕方がないだらう。