闇黒日記?

にゃもち大いに語る

氷上英廣『ニーチェの顔』

氷上英廣『ニーチェの顔』(岩波新書青版954)を讀んだ――。

ニーチェは史上最大のアンチで、いろんな人に粘着しては非難を浴びせると云ふのを一生やつて、最後に發狂して死んだ。粘着アンチ問題にかかはる人はニーチェを研究すると良いと思ふ。あれこれ難癖をつけては評價を下げるニーチェの手練手管。

ニーチェは、現世肯定=自己肯定の立場から、現世を否定する思想なら何でも敵視し、人を否定する道徳を敵視した。結果として、自己を禮讚する狂氣に陷つた一方、自分も結局は道徳を創造し人に御説教する立場に嵌り込んでしまつた。

ニーチェは、Aさんを否定するのにBさんの言つてゐる事が使へるとなればBさんを禮讚する。けれども、すぐにBさんを否定したいと云ふ氣分になつてCさんを持出して來る。結果としてAさんの評價が逆轉する事になるのだけれども、ただでは褒めたくないものだから最後は最う言ふ事がめろめろに。


日本の保守主義者がルソーの民主主義を敵視して、激しく非難してゐるのを最近見た。ニーチェも民主主義批判をやつたが、念頭にあつたのは矢張りルソーの民主主義だつたと云ふ。何れにしても英米の民主主義の思想は考慮外である。

ニーチェは同時代の人の間では全く知られてゐなかつた。後に「現代思想」の人に再發見されて有名になつた。彼の「思想」のつかみどころのなさ・判り辛さは「深奧さ」と誤つて解釋された。
「うなぎのやうに掴み所がないが兔に角アンチ」と云ふ人物は、我々にとつて今や身近な存在になつてゐる。